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インパーマネントロスとは?AMM式・計算例・手数料との損益分岐

インパーマネントロスを、x*y=kのAMM式、価格比ごとの計算例、HODL比較、手数料で埋める損益分岐、集中流動性との違いまで再計算可能なコードで解説します。

トークンペア、流動性プール、インパーマネントロス計算を示す記事画像

流動性プールへ2種類のトークンを預けると、価格が動いたときに「そのまま保有していた場合」と違う数量構成になります。この差を表すのが**インパーマネントロス(Impermanent Loss、IL)**です。

ILは、預けた資産の円換算額が必ずマイナスになる、という意味ではありません。比較対象は、同じ初期資産をウォレットで持ち続けた場合です。LPの評価額が増えていても、HODLより増え方が小さければILは発生しています。

この記事では、50:50の定積型AMMを前提に、x*y=k、価格比ごとの計算、手数料で差を埋める損益分岐、集中流動性で前提が変わる点まで整理します。数値はリポジトリのexamples/impermanent-loss.mjsで再計算できます。

価格変化に合わせて定積型AMMの2資産残高が変わる流れ

インパーマネントロスは「LPとHODLの差」

まず、次の3つを分けて考えます。

指標 比較しているもの
LP評価額 現在LPを解消したときに受け取る2資産の時価
HODL評価額 最初に預けた2資産を、そのまま持っていた場合の時価
IL LP評価額 ÷ HODL評価額 - 1

たとえば、LP評価額が2,828ドル、HODL評価額が3,000ドルなら、ILは約-5.72%です。LP評価額そのものは初期の2,000ドルから増えていますが、HODLより171.57ドル少ないため、相対的な損失があります。

「impermanent」と呼ばれるのは、価格比が預入時へ戻れば、手数料を除いたこの差が理論上は解消するためです。ただし、価格が戻る保証はなく、LPを解消すればその時点の数量構成が確定します。名前だけを理由に、損失が必ず戻ると考えないでください。

x*y=kで保有数量が変わる

Uniswap v2型の定積AMMでは、手数料をいったん無視すると、プール内の2資産量は次の関係を保ちます。

x * y = k
price = y / x
  • x: 基準資産の数量
  • y: 見積資産の数量
  • k: 定積
  • price: 見積資産で表した基準資産の価格

外部市場で価格が動くと、裁定取引によってAMMの価格も近づきます。その過程で、値上がりした資産はプールから減り、もう一方の資産が増えます。LPはプールの持分を保有しているため、引き出せる資産数量も変わります。

新しい価格をPとすると、定積型プールの残高は次のように求められます。

x = sqrt(k / P)
y = sqrt(k * P)

価格が2倍になった例

初期状態を次のようにします。

1 ETH + 1,000 USDC
1 ETH = 1,000 USDC
初期評価額 = 2,000 USDC
k = 1 * 1,000 = 1,000

ETH価格が2,000 USDCになったとき、手数料を無視したAMM内の数量は次の通りです。

ETH = sqrt(1,000 / 2,000) = 0.707106...
USDC = sqrt(1,000 * 2,000) = 1,414.213...

ETH価格が2倍になったときのLPとHODLの評価額比較

比較 保有数量 2,000 USDC/ETHでの評価額
LP 0.7071 ETH + 1,414.21 USDC 2,828.43 USDC
HODL 1 ETH + 1,000 USDC 3,000.00 USDC
-171.57 USDC

したがって、HODL比の差は次のようになります。

2,828.43 / 3,000 - 1 = -0.05719...

価格が2倍のとき、手数料を除くILは約5.72%です。 価格が半分になった場合も、同じ価格比の逆数なので相対差は約5.72%になります。

価格比だけで計算する式

預入時からの価格比をrとすると、50:50のフルレンジ定積AMMで、手数料を除いたLP/HODL比は次の式になります。

LP / HODL = 2 * sqrt(r) / (1 + r)
IL = 2 * sqrt(r) / (1 + r) - 1

損失率を正の数で表示したい場合は、次のようにします。

loss = 1 - 2 * sqrt(r) / (1 + r)

価格比ごとの早見表

現在価格 ÷ 預入時価格 HODL比の差
0.25倍 -20.00%
0.50倍 -5.72%
0.80倍 -0.62%
1.00倍 0.00%
1.25倍 -0.62%
1.50倍 -2.02%
2.00倍 -5.72%
3.00倍 -13.40%
4.00倍 -20.00%
5.00倍 -25.46%
10.00倍 -42.50%

r1/rは同じILになります。たとえば4倍と0.25倍、2倍と0.5倍は同じ相対差です。

手数料で埋める損益分岐

LPにはスワップ手数料が入ります。そのため、最終的な成績は、手数料を除いたILだけでは決まりません。

単純化して、同じ時点・同じ通貨単位で比較するなら、HODLへ追いつく条件は次の通りです。

LP評価額 + 累積手数料 - 管理コスト >= HODL評価額

価格が2倍の例では、差は171.57 USDCです。

  • HODL評価額に対して必要な手数料: 171.57 / 3,000 = 5.72%
  • 手数料を除くLP評価額に対して必要な手数料: 171.57 / 2,828.43 = 6.07%

この6.07%は、今後その利回りが得られるという予測ではありません。あくまで、その時点の価格比でHODLとの差を埋めるために必要な累積収益率です。

実際には、次も同じ期間・同じ評価通貨で揃える必要があります。

  • 受け取ったスワップ手数料
  • 追加インセンティブ
  • ガス代、reposition、claimなどの管理コスト
  • 未収手数料を含めるか
  • トークン価格と報酬トークン価格
  • positionを追加・削除した時刻

高い表示APRだけで判断せず、HODLとの差、実現した手数料、管理コストを分けて記録してください。

フルレンジと集中流動性では前提が違う

ここまでの式は、50:50で0から無限大まで流動性を置く、Uniswap v2型またはフルレンジの定積ポジションを前提にしています。

Uniswap v3・v4の集中流動性では、LPが価格レンジを設定します。狭いレンジへ資本を集中させると、レンジ内では同じ資本でも深い流動性を提供できます。一方で、価格が境界へ近づくほど資産構成が一方向へ偏り、レンジ外ではポジションが単一資産になります。

フルレンジと集中流動性で価格範囲と資産構成が異なる図

状態 資産構成 手数料
レンジ内 2資産の比率が価格とともに変化 対象レンジで取引があれば獲得対象
下限より下 一方の資産へ偏る レンジ外のため獲得しない
上限より上 もう一方の資産へ偏る レンジ外のため獲得しない

集中流動性の損益は、レンジ下限・上限、開始価格、終了価格、fee tier、手数料、再配置コストを含めて計算する必要があります。上の2*sqrt(r)/(1+r)-1を狭いレンジへそのまま当てはめないでください。

ILを確認するときのチェックリスト

  1. 比較対象はHODLか、初期元本か
  2. 価格比は同じ通貨建てか
  3. フルレンジか、集中流動性か
  4. 手数料・報酬を含めたか
  5. ガス代と再配置コストを含めたか
  6. positionがレンジ内か、レンジ外か
  7. LPを追加・削除した時刻を揃えたか
  8. トークン自体の価格下落やスマートコントラクトリスクと混同していないか

DEX画面のPrice impactやslippageは、LPの長期的なILとは別の概念です。取引時の価格影響と許容差はPrice impact・slippage・MEVの解説で扱います。

LPを解消するトランザクションやcalldataを確認したい場合はABI・function selector・event logsを読む方法、PancakeSwapで流動性を追加・解除する操作はPancakeSwapのLP解説を参照してください。

まとめ

インパーマネントロスは、LPの評価額が初期元本より減ったかではなく、同じ初期資産を保有し続けた場合との差です。

  • 50:50のフルレンジ定積AMMでは、価格比rから再計算できる
  • 価格が2倍または半分なら、手数料を除くHODL比の差は約5.72%
  • 手数料がILと管理コストを上回れば、HODLへ追いつく可能性がある
  • 集中流動性ではレンジと資産構成が変わるため、フルレンジ式だけでは評価できない
  • レンジ外では単一資産になり、価格が戻るまで手数料を獲得しない

LP提供は、手数料収入と引き換えに、価格変動、資産構成の変化、スマートコントラクト、トークン、管理コストのリスクを引き受ける行為です。この記事の数値は仕組みを確認する例であり、収益や損失回復を保証するものではありません。

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